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演劇でクリスマスの定番と言えば…


12月になると、ちまたは様々なクリスマスソングに彩られるが、演劇にだってクリスマスの定番はある。中でも、北村想の戯曲「悪魔のいるクリスマス」は不思議な感触の一編だ。登場するのは、作家・少女・少年・天使の4人。クリスマスイブの公園で展開されるシンプルな会話劇は、東京の流山児★事務所をはじめ数多くのカンパニーが上演してきた。同作を北村自身が15年ぶりに演出する。当の北村はもちろん、公演を主催するナビロフトのプロデューサーで、出演も果たす小熊ヒデジに話を聞いた。

北村「台本を書き起こす時ちょっと直さなきゃいけないかと思ったんですが、読んでみると、最近書いたような感じがして。古くないというよりは、時代が追いついてきた感覚。今の世情というか状況を考えると、『これでイイじゃん』『こういう風じゃん』って思ったんですよね。今、観客に観ていただくのにぴったりの作品だと、自分自身が感じました」

売れない作家と少女Aの会話は、お互い真面目ゆえ最初はユーモラスに映るが、やがて人間とは何か、人間を人間だと決定づけるものは何かという話題に及ぶ。人工知能(AI)の進化に拍車が掛かり、あらゆる場面で人間が機械に取って代わられる現在を踏まえれば、1980年代半ばに書かれた「悪魔のいるクリスマス」は確かに時代を先取りしていた。

地域交流のイベント「ロフト DE クリスマス」の一環として公演を企画した小熊も「今も各地で上演され続けていることからして、マレに見る作品ですよね。世代によって受け止め方が違うと思うので、親子やカップル、また普段あまり演劇を観ない方にもオススメしたい」と、あらためて同作の凄さを語った。そんな小熊は名古屋でもベテランの役者だが、北村の演出を受けるのは意外にも初めてとあって、違った感慨もにじませる。

小熊「当初は自主映画を制作していて、演劇なんて関わることがないと思っていた時代に、想さんと出会ったんです。想さんがまだTPO師★団を率いていた頃ですね。初舞台も観ていただいているんですよ。思い出しても恥ずかしいけど(苦笑)」

稽古の様子 右が北村演出初体験の小熊ヒデジ

後列左から時計回りに、小熊ヒデジ、尾國裕子、北村想、森らんぽ。、オオノショウヘイ

30年ほどの付き合いになる北村と小熊が初手合わせの一方、共演する顔ぶれはさらに初々しい。少女A役の森らんぽ。(はなはな団)、少年A役のオオノショウヘイ(劇団マネキン)、天使役の尾國裕子は、かなり舞台経験が少ない。

北村「3人はほとんどビギナーなので、稽古初期はまずワークショップを行って、直立二足歩行をさせるところから始めました(苦笑)。舞台に立つとはどういうことか、そもそも舞台とは何をするところなのか……。論理で説明して、やって見せて、十言いたくても一つずつ教えてね。演出する身としてはリスクもあるし、ストレスも感じるけど、自分でやって良かった。3人とも良いものになっていくと思いますよ」

稽古を見学させてもらったが、若手3人は危うげながら、逆にそれが魅力にもつながっている。観ていると、どこか引きつけられてしまうのだ。

小熊「3人にとっては、テクニックよりピュアな部分が出てくる舞台になるんじゃないかと。ナビロフトでは人材育成にも力を入れていきたいと考えていて、3人はまさに次代を担っていく立場なので、想さんと一緒に芝居をできる機会を作れて良かったと思っています」 北村「彼らにとっても、私自身にとっても、incidental gift(偶然の贈り物)なんですよ。小熊は30年やっているから“受け”の芝居ができる。対して3人は、最後は真心しかない」

“こころ”の問題は「悪魔のいるクリスマス」の主題とも通じる。結末の解釈は人それぞれ分かれるかもしれないが、誰しも何かしら心にしみ入るものがきっとあるはず。

北村「クリスマスの日だけでも、神様がいると思ってもらえたらいいんじゃないかと。信仰とか宗派に関係なくね。この芝居を観て心が安らぐというのか、普段は死ぬことが怖いけど『死んでもいいんだ』と思えるというのか……。『悪魔のいるクリスマス』を自分なりに咀嚼してみると、『フランダースの犬』や『マッチ売りの少女』のように、ハッピーじゃないけど感動する、そういう系統にあると思うんですよ。ひとつの童話、メルヘンとして、胸を張ってクリスマスに見せたい作品です」

なお、芝居の冒頭と最後に、知る人ぞ知る名曲が流れるのは新演出のポイント。この2曲が本編と呼応していることも劇場で実際に感じてほしい。

ロフト DE クリスマス 「悪魔のいるクリスマス」 ◎12月21日(木)~24日(日) ナビロフト 一般:前売1500円 当日1800円 大学・専門学校生:前売1000円 当日1300円 中学・高校生:800円 小学生:500円 ナビロフト 公式サイト

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