top of page

岸田戯曲賞受賞後初の新作に異変?アートの話をスポーツみたいに!?


今年2月、「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞に輝いた上田誠が、自身の率いるヨーロッパ企画で受賞後初の新作「出てこようとしてるトロンプルイユ」を発表。現在、全国を巡っている。東海地区は11月23日(木・祝)に名古屋公演、12月3日(日)の四日市では大千秋楽を迎える。ツアー真っただ中、上田をはじめ、石田剛太、諏訪雅、中川晴樹、永野宗典の5人に話を聞いた。

上田「受賞後初の書き下ろしという点は意識はしました。実は受賞式の時に『来てけつかるべき新世界』3.5話と題した寸劇を披露したんですよ。受賞者はパーティで何か出し物をするのが恒例で、せっかく大勢の方々にヨーロッパ企画を知っていただける機会だったら、ちゃんとやった方がいいなと思って。その気持ちのまま、新作にも取り組みました」

「出てこようとしてるトロンプルイユ」は、トロンプルイユ=だまし絵を中心に、アートの分野へと踏み込んだ群像劇。演劇もパフォーミングアーツなどと呼ばれることがあり、アートの一種とも言えるが、上田たちにとっては当初、別世界の感覚だったようだ。

上田「前作はちょっと猥雑な会話劇だったので、次はだまし絵や画家エッシャーを題材にした西洋モノを書こうと決めていました。アートの奥行きや裾野を考えれば、その扉を開けるのは怖い。ただ、だまし絵はアートの中では傍流にあるので、そこからなら入りやすいかなと。ところが、調べてみると、その世界も広大で(苦笑)。そういう困難の予感があったので、畏れを感じてはいたんです。僕たちが作るコメディというものには、ある程度ルールがありますから。一方で美術に対して懐疑的な部分もあって、玉石混淆なんだろうなと思うところも。それに比べたら、お笑いなんて言い訳が効かないですよね」

ヨーロッパ企画の代表で、作・演出を手掛ける上田誠

物語の舞台は、亡くなったトロンプルイユ作家の住まい。そこに大家さんや家賃を払ってない若手画家たち、黒人の若手作家、死んだ作家の友人で今は評論家のようになっている画家、さらに大家さんの弟のパン屋、娼婦などが登場する。住まいの主は死んでいるが、遺された作品はそのまま。美術の世界では死後に評価されることがあり、そこは演劇と大きく異なるだろう。

上田「死後に評価されるという現象は、アートの強いところかもしれませんね。戯曲が後世で評価を受けるケースはあるにしても、演劇はやっぱり“今”が大事ですから」

戯曲で賞を受けたばかりの上田の言葉だけに、彼らの信条を垣間見る想いがした。

上田「今回は永野さんが死んだ画家の役をやるんですけど、これは永野さんが大学に受かった時の勉強法が“全く受かるはずのない方法”だったことから着想していて(笑)、受かってない方の人生もあるんじゃないかなと思ったんですよ。岸田戯曲賞の受賞にしても、とる/とらないは重大な分岐点です。なおかつ人生の流れは紙一重で、誰しもいろんな夜がある。そんなことを思いながら、死後に想いをはせて書いたのが今度の新作ですね。死んだ画家は、そうではない宇宙での人生を描き直すんです。たまたま世間の評価に関係なく、時代を越えて語りかけてくる作品はあるはず。この劇は、生死を越えた世界の話なんです」

ヨーロッパ企画は、役者がエチュードを重ね、上田が台本にまとめ上げていく創作スタイル。前作ではフィールドワークにも精力的だったが、今回は実際どんな作業を……?

上田「1930年代ぐらいのパリを舞台にしていて、稽古場では美術史をひも解くあたりからスタートしました」 石田「僕はシュルレアリスムに傾倒している作家役なので、上田くんから『ダリの《記憶の執》について語れるようにしておいて』と指示が出たりして燃えました(笑)。同時代のアーティストを調べたりする役作りが、もうエチュードの始まりなんです。それと、前作から特に増えましたけど、具体的な場所や人物に対するアプローチも求められましたね」 諏訪「アートをめぐる議論は演劇の現場にも通じるところがあったので、やりやすかったですよ。アートに対して距離の近さを感じました」 永野「アートを題材にすると聞いた時は演劇や笑いになりにくいんじゃないかと思ったんですが、エチュードを行ううち議論を滑稽にできるとわかって。また、画家の“ものづくり”への執念は、演劇のダイナミズムにつなげられる。できあがってみると、バカバカしくもあり怖くもある劇。作家の苦しさを思うと、上田くんの話のようにも感じる作品です」 中川「僕はアトリエ長屋の大家の役で『アートはどうでもいいから早く部屋を片付けて』と言うような立場。『ダリって誰?』というぐらいアートとは遠い存在ですね」 上田「中川さんは他の人物に比べると、まともで、芸術家に振り回される人でもあります」 中川「最初の稽古の時、アートに関して尋ねられると思っていたから自分なりに答えを用意していたのに、俺だけ聞かれなくて(苦笑)。その時点で大家に決まっていたんですよね。芸術家役の人たちは上田くんからいろんな課題を出されていて羨ましかったです(苦笑)」 諏訪「酒井(善史)なんて、難しい『次元』の本を読まなきゃいけなかったりしてました(笑)」

石田剛太

諏訪雅

中川晴樹

永野宗典

いつも以上に気持ちを入れつつ、やることは変わらない。ヨーロッパ企画らしい有り様だが、続く掛け合いに、彼らの集団性と創造性の強さや高まりを感じた。

石田「観客の反応は、イイ感じで賛否分かれていますね(笑)」 永野「ヨーロッパ企画を初めて観る、新しいお客様も多いようなので……」 諏訪「観客の笑い声が聞き取れないんですよ。ただ、そんな反応がいつもより気にならなくて、今までにない感覚です」 上田「“ぶっちぎる”というか、違う方向に振り切ろうという想いはありました。受賞した前作はバランス良くできたので、今回はフルスイングのチャンスかなと。『ヨーロッパ企画はこういうこともやる』というところを見せたかったんです。だから構成が極端でバランスは悪い(笑)。その分、驚きはありますよ。いわばチップを一点に賭けたような作品です」 石田「初めてやるようなことがあったり、前後半でハッキリ分かれている感じがあったり。後半は大仕掛けもあって、ある意味、スポーツのようにノンストップで展開するんです」 永野「稽古中は、客観的に見れなかったよね」 石田「中川さんのセリフは全部おもしろいですよ」 中川「それを言うのはズルイ!」 上田「ともかく、絵と絡むのは、いつもの何倍も大変です」 諏訪「初日は正直『まだ40回ぐらい公演があるのかぁ』と思いました(苦笑)」 中川「石田や諏訪は、体力と技術を必要とされるシーンが多いんです」 諏訪「上田さんからは『足が止まっていた』とかいうダメ出しがあたっりして、本当にアスリートみたいですよ」 上田「精神が止まれば、足も止まりますからね」 中川「上田くんは俺らに動いてほしいの?」 上田「危機の時に足が止まってはダメなんです」

もはや最後はサッカーの解説のようだが、れっきとした演劇の話。劇場では、新しいのに変わっていないヨーロッパ企画と出会えるはずだ。

*撮影:多和田詩朗

ヨーロッパ企画 「出てこようとしてるトロンプルイユ」 ◎11月23日(木・祝)14:00 ウインクあいち大ホール ◎12月3日(日)14:00 四日市市文化会館第2ホール ヨーロッパ企画 公式ホームページ

タグ:

bottom of page