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三好十郎×刈馬カオス、緊迫対決!?


刈馬演劇設計社を率いる劇作家・演出家の刈馬カオスが充実期を迎えている。2013年初演の「クラッシュ・ワルツ」で第19回劇作家協会新人戯曲賞に輝き、2014年には「誰も死なない」が名古屋市民芸術祭2014特別賞を受賞した。また、昨年は第31回国民文化祭・あいち2016の一環で市民劇「長久手人物語~ナガクテビトモノガタリ~」を作・演出。これまでと異なる作風でファンを驚かせ、演劇初体験の観客も巻き込んで会場を沸かせた。

16歳から演劇を始めた刈馬も、今年で40歳。節目の年に彼は、日本の近代劇を支えた作家・三好十郎の戯曲を演出する。東京では近年、長塚圭史や多田淳之介らが三好作品を取り上げているが、刈馬が選んだのは異色の一編「胎内」。彼に話を聞いてみた。

「2年ぐらい前から既成の台本を演出したいと思っていたんですよ。劇作家協会新人戯曲賞をいただいた後、同じクオリティで書き続けることができるのかという不安があったんですけど、その後の作品で一定の成果は得られました。そうなると今度は、演出力向上を意識するようになって。作・演出を兼ねている者は、書いた時のイメージに寄せてしまいがちなので、純粋に演出力を鍛えなければいけないなと。それで近代戯曲か小説の劇化を念頭に作品を探していたら、ちょっと前に上演された『胎内』の劇評に興味を引かれたんです。実際読んでみると、緊張感のある台本に自分との共通点も感じ、手強いけど面白いので手掛けてみることにしました」

三好作品といえば「炎の人」「浮標」などが有名だが、「胎内」は少し趣が異なる。発表は、第二次世界大戦終結から4年後。防空壕跡とおぼしき穴に登場するのは、闇ブローカーの男、その愛人、元日本兵の3人だけだ。最小単位とも言える構造の劇を、刈馬は果敢にも「カルマ・ストレートver.」「カオス・ハイミックスver.」の2バージョンで発表する。

「自分自身いろんなバージョンで観たいと思ったんです。違う役者とやることで違うアイデアを取り入れ、ハッキリと全然違うバージョンを打ち出したいですね。台本は少しカットした程度で、ほぼオリジナルどおり。全編暗闇なので、どう見せるかが難しいです」

カルマ・ストレートver.の稽古風景

カルマ・ストレートは、いちじくじゅん(てんぷくプロ)、岡本理沙(星の女子さん)、今津知也(オレンヂスタ)が出演する標準的上演。一方のカオス・ハイミックスには、にへいたかひろ(よこしまブロッコリー)、元山未奈美(演劇組織KIMYO)、中村猿人(劇想からまわりえっちゃん)に加え、女性6人がアンサンブルで参加。さらにダンスグループのafterimage、【exit】で活動する堀江善弘を共同演出に招き、より身体的に空間を彩っていく。

「堀江さんには主にアンサンブルの演出をお願いします。彼女たちにダンスをさせるのではなく、ダンスの視点で役者の動きを統制してもらいたくて。主要キャストは両方とも、愛人・村子を演じる役者を軸にバランスを見て決めました。岡本さんも元山さんも僕の作品への出演経験が多く、もちろん信頼はあつい。また、ふたりにとって激情型の村子というキャラクターは、やりがいのある、新しい挑戦になると思ったんです」

左から演出の刈馬カオス、カルマ・ストレートver.に出演する今津知也、いちじくじゅん、岡本理沙

確かに、活躍著しい岡本と元山の演技は見モノ。無論、村子役のみならず、地震で極限に追い詰められていく男女の様相は鬼気迫るものとなるだろう。そもそも、この戯曲には三好なりの敗戦に対する答えが込められたとされている。それでいて、現代を生きる私たちの気分と重なるものを感じるのは筆者だけだろうか。「胎内」という題名は実に意味深だ。

「現代でもピリッとくる台詞があったり、今の自分たちのことを言われている感覚はありますね。戦争の余韻と予感というのか、どこか空気が通じているのかもしれません。『胎内』というタイトルも絶妙だなと感じます。シチュエーションとしては絶望的だけど、語っていることは希望なんですから。どんな愚かなことをしても、人間に希望を探している。これを戦後たった4年で書いた三好十郎の凄さですよね」

刈馬演劇設計社 「胎内」 ◎3月23日(木)~26日(日) 七ツ寺共同スタジオ 前売:一般2800円 U-25(25歳以下)2500円 高校生以下1500円 当日:一般3000円 U-25(25歳以下)2700円 高校生以下1700円 ※前売のみセット券あり。30枚限定販売。 ※Wキャスト。詳細は公式サイト参照。 https://karumaengeki.wixsite.com/karuma

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