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女だって観たい!日活ロマンポルノ


2016年11月20日で45周年を迎えた日活ロマンポルノが復活。1988年に製作を終了して以来の新作が公開される。「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」では、国内外で活躍する5人の気鋭、鬼才が完全オリジナル脚本のロマンポルノを監督。その顔ぶれたるや塩田明彦、白石和彌、園子温、中田秀夫、行定勲という豪華さだ。監督陣を代表して白石和彌が名古屋を訪れ、ロマンポルノへの想い、自作『牝猫たち』の完成までを語ってくれた。

「日活ロマンポルノ45周年を機に始まった企画ですが、『ロマンポルノとは何なんだ』と考えた時、当時とは時代が違い過ぎると思いました。今や、誰でも過激な動画を観ることが可能ですから。そんな状況においてロマンポルノは、人間をどう切り取っていくかということに行き着くしかない。もちろん、エロさも必要ではありますけど」

知らない人に、あらためてご説明を。「日活ロマンポルノ」とは、映画の製作・配給会社である日活株式会社が1971年に打ち出した成人映画のレーベルだ。『団地妻 昼下りの情事』『色暦大奥秘話』の2作品を皮切りに、17年間で約1100本の映画を公開。通常3作品で1プログラムという形式だったため少ない予算で量産されたが、自由な題材や表現に取り組める実験性もあり、ロマンポルノからは数多くの才能が輩出された。神代辰巳、小沼勝、加藤彰、田中登、曽根中生らは代表格。彼らは名匠のもとで助監督の経験を積みながら、ロマンポルノで作家性を磨いていった。

ただし、ロマンポルノにはいくつかの条件が付き物で、ハードな撮影現場であったことも事実。ロマンポルノ・リブート・プロジェクトも、製作費は5作品一律で決して大きな予算額ではなく、他に「全体で80分前後に収める」「10分に1回は濡れ場を入れる」「撮影期間は1週間」などの条件が出され、白石監督も苦労した様子だ。

「僕は、故・田中登監督の作品『牝猫たちの夜』(72)の外枠だけ借りて“デリヘル”の話にしました。登場人物が風俗嬢なので、10分に1回の濡れ場に関しては、反則的ですけど、困ったらお客さんのところに行けばいいかなと(笑)。それより1週間という時間の方が苦しみました。10分に1回の濡れ場があるということは、約80分の映画の中で7~8回は絡みがあるということです。それを7日間で撮ると1日1回程度絡みを撮らなきゃいけない計算になるんですが、絡みのシーンは撮影に時間が掛かるんですよね。前張りなどの準備が大変なうえ、すべての絡みで体位を変えたいという欲も出ますし。それなのに初日、2日目は絡みの撮影がなかったため、3日目から怒涛のごとく撮ることになってしまって(苦笑)。やっと1日の使い方に慣れてきた頃、撮影が終わってしまった感覚です(苦笑)」

(C)2016日活

亡き若松孝二監督に師事した白石監督だが「若松さんは絡みを撮るのが得意ではありませんでした(苦笑)。あまり好きじゃないのに、必要に迫られて撮っていたところがあるんです。若松さんからはテーマや生き様、ケンカの仕方は学びましたが、実際に映画を撮る上では真似しないよう努めてきました」と回想。今回は田中登監督へのオマージュとなったが、社会への眼差しは若松監督からの薫陶だろうか。『牝猫たち』のヒロインは、元OLの雅子、シングルマザーの結依、人妻の里枝という風俗嬢3人。物凄く追い詰められているわけでもなく客商売をこなす彼女たちは、現代の女性を象徴しているかのよう。一方、関わる男性たちは複雑な内面を抱え、どこか歪んで見える。それもまた社会の映し絵と言えそうだ。

「製作サイドから現代の様子を入れてほしいという要望はあったので、僕の中にたまっていた事件を3人の女性キャラクターに振り分けたら、ちょうどいい形で収まりました。またドキュメンタリー風に、街が主役にも見えるよう意識ました。男性より女性の方が生命力があると思うし、女性には幸せになってほしいと思っています。これまでも僕は、女性を男性より下の存在として描いたことはありません。僕自身、強い女性とばかり付き合ってきたこともあると思います」

井端珠里、真上さつき、美知枝ら気鋭女優を主要キャストに、TEAM NACSの音尾琢真、郭智博、漫才コンビ・とろサーモン、そして『牝猫たちの夜』に出演していたベテラン・吉澤健、ロマンポルノの女王・白川和子と、個性的な俳優が脇を支える。女性を見せる映画だが、男性の担う役割も大きい。

「音尾さんは高校の後輩で、これまでも機会あらば声を掛けてきました。今回はロマンポルノなので忠誠心を試すうえでもオファーしたんですが(笑)、二つ返事で受けてくれました。この作品は、男性が肝だなと思っていたんです」

他にも松永拓野や吉村界人ら若手が独特の存在感で好演。3人の女優陣の心の揺らぎにも惹きつけられていく。さらに面白いのは、後半になると悲惨な出来事もあるのに不思議な明るさを帯びてきて、「大巨獣ガッパ」登場にいたっては胸がすくような気分に……!

(C)2016日活

「人間誰しも辛い社会の中で生きていると思うんですが、みんな暗い顔ばかりして生きているわけではない。この映画でもラストシーンまで置かれている状況は何も変わらないけど、それが人生だし、それでも生きていくしかない。だから、明るい方向に物語を持っていきたいとは思っていました。結依の息子が持っているガッパのフィギュアは、最初、ゴジラがよかったんですが日活から許可がおりず、『日活にはガッパがいます!』と言われまして(笑)。そこで、あらためて映画を観てみたら、親子の話でもあり、結依と息子の物語にリンクするので使用しました」

旧知の間柄の脚本家・荒井晴彦には「エロくない」と感想を言われたそうだが、「荒井さんいわく『3本立てのうち箸にも棒にも掛からないのが本当のロマンポルノ』って、幅が狭すぎて……(笑)」とも冗談交じりに語った白石。それでは、彼の考えるロマンポルノとは――。

「ロマンポルノは好きだったし、今でもリバイバル上映があれば結構観ていますが、若い女性の観客が増えましたよね。女優の橋本愛さんも大好きだと公言していたり、芸術だと認識されてきている。昔のロマンポルノは『とにかく勃起させろ』という感じもあったと思いますが、今回は女性に向けて製作したつもりです。そしてロマンポルノの看板を借りて仕事をする以上、自分なりに解釈しなければいけないと思っていました。性愛という言葉の“性”の字は“心が生きる”と書きます。それがロマンポルノの本質であり、だから僕たちはロマンポルノを観ることで人生を学ぶことができると思うんですよね」

ロマンポルノ・リブート・プロジェクト ※以下、すべて名古屋シネマテークにて公開

行定勲監督『ジムノペディに乱れる』

◎2017年1月28日(土)~2月17日(金) 塩田明彦監督『風に濡れた女』 ◎2017年1月28日(土)~2月17日(金) 白石和彌監督『牝猫たち』 ◎2017年2月4日(土)~24日(金) 園子温監督『ANTIPORNO』 ◎2017年2月11日(土・祝)~3月3日(金) 中田秀夫監督『ホワイトリリー』 ◎2017年2月18日(土)~3月3日(金) 公式サイト http://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/ 名古屋シネマテーク http://cineaste.jp/

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